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2024.05.24
自民党派閥の裏金問題など昨今の政治家の不祥事は、政治家が、選挙で勝利すれば国民を蔑ろにしても構わないと考えている印象を与える。一方、国民は投票を棄権したり、普段から政治に注目しておらず、主権者としての責務を果たしているとは言い難い。国民と政治の溝を埋めるため、国民一人ひとりが政治に関心を持ち、多面的に情報を収集し、自らの主権を積極的に示す「物言う国民」になることが求められる。
国政選挙における投票率は30年近く低水準にあり、直近の衆議院・参議院の選挙で持ち直したものの、それでも全体の投票率は50%強にとどまっている。投票率の低さの背景には、国民の政治的無関心や政治不信があると推測され、自民党派閥の裏金問題をはじめとする政治家の不祥事は、国民の政治家に対する失望感や不信感を一層深めている。
国民の怠慢が選挙至上主義を助長させる
政治家の不適切な言動は以前から見られたが、昨今のそれは、政治家にとって重要なことは選挙で勝利することで、政治家本来の役割である「国民の声を政治に届ける」ことには無関心であるという印象を与える。
NIRA総研の「第2回政治・経済・社会に関する意識調査(NIRA基本調査)(速報)」でも、そうした印象が広がっていることが示された。図1にあるように、「国会議員は、おおざっぱに言って当選したらすぐ国民のことを考えなくなる」、「今の政治家は、あまり私たちのことを考えていない」という問いに、8割弱の回答者が同意を示しており、多くの人が、政治家は国民の代表としての自覚が足りないと認識していると言えるだろう。
早稲田大学の高安健将教授は、「日本と世界の課題2024」のなかで、近年、選挙で勝利すれば法や憲法などに縛られず自由に行動し、他の存在を蔑ろにしても許されるかのような風潮が見られると指摘する。公約反故や問題行動など、政治家が主権者である国民を軽視した行動をとっても、国民の政治的関心が低いために、それが大規模な抗議運動につながることはまれであり、問題はしばしば忘れ去られる。
さらに、国民の中には、投票を棄権したり、「知名度が高いから」などの軽い理由で候補者を選んだり、また、普段から政治家の活動や政策を気にかけない人々も多い。こうした国民の怠慢も、「選挙至上主義」を助長させていると言えるだろう。
国民一人ひとりが政治に参加する
こうした状況を打破するには、高安教授が「選挙で選ばれた代表をも制御しなければならない」と述べるように、政治家が好き勝手行わないよう、日頃から政治を注視することが重要だ。
その際、テレビや新聞などのマスメディアに「ウォッチドッグ」の役割を一任するのではなく、国民一人ひとりが政治に関心を持ち、情報を入手し、議論することが肝要だ。
ソーシャルメディアの普及により、誰もが利害関係なく自由に情報を発信できるようになり、マスメディアが報じないような「政治の裏側」も人々の目に留まるようになった。中には偽情報や真偽不明な情報も含まれるため注意は必要だが、マスメディアが発信する情報を盲目的に信じるのではなく、より多面的に情報を収集・活用し、政治家やその政策について考えることが求められる。
また、国民と政治をつなぐプラットフォームの活用も有用だ。例えば、「選挙ドットコム」は、地方選挙を含む全国の選挙情報や政治家のデータベースなどを公開しているウェブサイトで、立候補者の情報を同サイトで一覧することができる。また、「PoliPoli」は、政党や国会議員が現状の政策や今後の取り組みに関して投稿し、ユーザーがそれについてコメントしたり、投稿された政策の進捗を確認することができるプラットフォームだ。
こうしたソーシャルメディアは、国民が政治家の能力や資質を判断するのに役立ち、積極的に政治に参加するのを後押しするだけでなく、政治の透明性や責任の向上にも寄与する可能性がある。
主権者の責務を果たし、「物言う国民」に
言うまでもなく、全ての政治家に問題があるわけではなく、国民のために尽力する政治家もいる。しかし、日頃から政治に注目していなければ、そのような政治家の存在に気づくことは難しい。国民と政治の溝が広がるなか、国民は前述のような主権者としての責務を果たし、自らの主権を積極的に示す「物言う国民」になれるかどうかが、問われている。
参考文献
総務省「国政選挙における年代別投票率について」
NIRA総合研究開発機構(2024)「第2回政治・経済・社会に関する意識調査(NIRA基本調査)(速報)」
NIRA総合研究開発機構(2024)「日本と世界の課題2024」
執筆者
羽木千晴(はぎ ちはる)
NIRA総合研究開発機構在外嘱託研究員