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2024.02.16
2023年、「ジェンダーギャップ指数」で、日本は過去最低の順位となった。他方、少子化への危機感を背景に、日本社会に変化の兆しはある。また、旧統一教会、旧ジャニーズ、自民党派閥の裏金問題など、ここにきて昭和の旧弊からの決別を感じさせる出来事も続いている。日本のこれからのグランドデザインをどう描くか。少子高齢社会が正念場を迎える中、ジェンダー平等の実現は1人ひとりが生き生きと活躍する社会を築くための一里塚だ。
世界から取り残される日本
世界経済フォーラムが公表する「ジェンダーギャップ指数」。2023年、日本は146か国中125位と、過去最低の順位となった。分野別の指数では、「教育」と「健康」の値は世界トップクラスだが、「政治」と「経済」の値が低いという歪なもの(図表1)。教育を受ける比率に大きな男女差はないが、実社会での活躍に大きな男女差があるとする。
図1 ジェンダーギャップ指数(各分野)
人口・働き手が減少していく日本は、本来、世界の先頭を切って、女性活躍の方策を模索し、多様な人材の活用に突き進むべきではなかったか。政府も1億総活躍社会などを掲げてきたが、現実には、女性の活躍は課題となったままだ。NIRAが先日公表した「日本と世界の課題2024」(注1)で白波瀬佐和子氏(東京大学教授)は、「(日本は)戦後の固定的、かつ保守的なジェンダー規範から抜け出せ」ず、「大きく変化する世界の動きに後れをとった」と指摘している。21世紀、諸外国は着実に変化を続けてきたのに、日本はかつての規範から変化できないまま、過去最低順位までズリ下がってしまったということか(図表2)。
図2 日本のジェンダーギャップ:指数と順位の推移
一方、日本の女性の就業率は上昇を続け、いまや共働き家庭が圧倒的に多くなっている。あえて言うなら、平成の間、変化を続けてきた「実態」と、昭和のままの「ジェンダー規範」が大きな乖離を起こしているのが日本の現状なのだろう。これは2つの問題をはらむ。1つは、女性の就業が進む一方で、規範がそれに合わせた変化がなされないことで、女性の負荷(家事育児の偏った負担、キャリアへの影響)が増大し、少子化問題に負の影響を与える。もう1つは、女性の活躍が進まないことで、日本社会の多様性の実現が阻まれ、社会の意思決定に歪みがおき、経済成長やイノベーションにも負の影響を与える。
共有されはじめた少子化への危機感
変化の兆しはある。例えば、コロナ禍の副産物で、在宅勤務が広く導入されたこと。山口慎太郎氏(東京大学教授)の研究によると、在宅勤務が週1日増えると、男性の家事・育児にかける時間が6.2%増加する(注2)。また、経団連の調査によれば、2022年の男性の育児休業取得率は5割近くに達し、前年から大きく上昇した(注3)。少子化に対する危機感は、政財界そして多くの国民に共有されつつある。その危機感をベースに、ジェンダーギャップ解消に向けた動きにも“はずみ”がつくことを期待したい。また、2022年に男女の賃金の差異開示が大企業に義務付けられたことも、企業による格差縮小の取り組みに期待できるところである。
ジェンダー平等を、日本のグランドデザインの中で描け
ジェンダーギャップのように多数の人々の規範に関わる問題は、社会のさまざまな分野・レイヤーで構造的に根を張っており、何か1つの現象を変えれば、あるいは掛け声1つかければ解消されるというものではない。しかし2023年は、旧統一教会、旧ジャニーズ、自民党派閥の裏金問題など、昭和時代からの体制の問題や矛盾が噴出した年でもあった。1つひとつは別個の事柄ではあるが、これらが同時期に継起したことに、日本社会の地殻変動を思うのは私だけではないように思う。日本社会がようやく、昭和の旧弊からの決別と変革の時期を迎えているのだとすれば、ジェンダーギャップ解消にも機運が生まれることは期待できる。
懸念されるのは、駒村康平氏(慶応義塾大学教授)が、前述「日本と世界の課題2024」の中で「日本型雇用システムが崩壊したにもかかわらず、新しい社会経済システムを見いだしていない」と指摘しているように、地殻変動の先にどのような社会を築こうとしているのか、いまだ、私たち国民が将来ビジョンを共有しているとは言い難いことだ。少子高齢社会が正念場を迎える中、1人ひとりが生き生きと活躍する社会をどのように築くのか。今こそ、改めてそのグランドデザインがしっかりと描かれる必要がある。ジェンダー平等はそのための重要な一里塚だ。
2024年、政労使の垣根を越えた未来ビジョンの形成作業が、これまでにもまして重要な1年となるのではないだろうか。
- 脚注
- 1 NIRA総合研究開発機構(2024)「日本と世界の課題2024」
- 2 NIRA総合研究開発機構(2022)「コロナ禍で懸念される少子化の加速」わたしの構想No.60
- 3 日本経済団体連合会(2023)「「男性の家事・育児」に関するアンケ―ト調査結果」
執筆者
榊麻衣子(さかき まいこ)
NIRA総合研究開発機構研究コーディネーター・研究員