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政府への信頼、国会への信頼、一般的信頼と公共サービスへの負担の関係

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2023.12.15

 政府への信頼、国会への信頼、一般的信頼の高まりは、人々が公共サービスへの負担を受容することにつながるのであろうか。本記事では、「第1回政治・経済・社会に関する意識調査(NIRA基本調査)」のデータを使い、医療や子育て支援といった公共サービスの分野によって、3種類の信頼と負担意思の関係がどのように異なるかを分析した結果を報告する。

本記事の概要

 本記事では、NIRA総合研究開発機構が20233月に実施した「第1回政治・経済・社会に関する意識調査(NIRA基本調査)」を使い、公共サービスへの負担に対する人々の意識が政府などへの信頼とどのように関係するかを分析した結果を報告する。

 公共サービスの充実のためとはいえ、税金や社会保険料の負担増を喜ぶ人はそれほど多くないであろう。しかし、その中でも人々が公共サービスへの負担を受容することにつながるとされる要因がいくつか挙げられている。ここでは、特に政府への信頼、国会への信頼、一般的信頼(つまり他者への信頼)の3つに注目する。

 政府や国会を信頼する人は負担したお金が政府によって適切に使われると考えやすく、一般的信頼が強い人は公共サービスを必要とする他者のために負担しようと考えやすいと、しばしば論じられる。

 こういった議論はどれほど一般的に当てはまるのであろうか。本記事では医療や子育てというように公共サービスの種類を細かく分け、公共サービスごとに政府や国会への信頼、一般的信頼と負担の関係を分析する。

分析の方法

 「第1回政治・経済・社会に関する意識調査(NIRA基本調査)」では、「あなたは、次にあげる日本の組織などをどの程度信頼しますか」という質問で「政府」と「国会」に対する信頼を「全く信頼しない」、「あまり信頼しない」、「やや信頼する」、「非常に信頼する」の4点尺度で尋ねている(Q11.89)。一般的信頼については、「一般論として、たいていの人は信頼できる」という意見への考えを「そう思わない」、「どちらかといえばそう思わない」「どちらともいえない」、「どちらかといえばそう思う」、「そう思う」の5点尺度で尋ねている(Q24.7)。

 負担の受容については「以下の公的給付や公共サービスについて、その水準や質を上げるために追加の税金や社会保険料を自ら支払ってもよいと思うものをお選びください」という質問で、10個の公共サービスを挙げている(Q32)。10個の公共サービスは(1)医療サービス(2)介護・障碍者支援(3)年金制度(4)子育て支援(5)学校教育(6)雇用支援(7)生活支援(8)公共安全(9)緊急時・災害時の支援(10)防衛である。複数回答を可としている。

 得られた有効回答から、個人を単位とした線形回帰モデル(n = 1805)によって信頼と負担の関係を分析した。10個の公共サービスで別々にモデルを推定している。従属変数は、それぞれの公共サービスに負担してもよいと答えたら1、そうでなければ0となる二値変数である。独立変数は、政府への信頼と国会への信頼の変数については「全く信頼しない」を1、「非常に信頼する」を4とし、一般的信頼については「そう思わない」(一般的信頼が低い)を1、「そう思う」(一般的信頼が高い)を5としている。

 また、以下の要因を統制している。性別、年齢、最終学歴、業種、配偶者の有無、子の有無、世帯収入、長期的党派性である。

分析の結果

 分析の結果が、以下の図1である。図1では、政府への信頼、国会への信頼、一般的信頼の変数の係数(点)とロバスト標準誤差から算出した95%信頼区間(エラーバー)を公共サービスごとに示している。係数が正であれば、信頼の高まりが負担の受容につながるといえる。係数は、信頼の質問への回答が1段階上がるごとに、負担してもよいと答える確率がどのくらい増えるかを示す値として解釈できる。例えば、政府への信頼の係数が0.025であれば、1(全く信頼しない)の人と4(非常に信頼する)の人では3段階分で0.075、つまり7.5%ポイントの確率の違いがあるということになる。

 図1からまず全体的な傾向として分かるのは、政府への信頼、国会への信頼、一般的信頼の高まりはいずれも、程度の差こそあれ負担の受容につながるということである。信頼が高まるほど負担を受容しにくくなるという負の関係にはなっていない。

 ただし、信頼と負担の関係の強さは公共サービスによって少しずつ異なる。そもそも、雇用支援、生活支援、緊急時・災害時の支援については、政府と国会への信頼、一般的信頼のいずれについても負担意思との関係が弱く、有意にはなっていない。それ以外の公共サービスでは、3種類の信頼のうち少なくとも1つについては有意な関係が見られる。

 政府や国会への信頼が負担と特に強く関係する公共サービスとして、主に社会保険料で負担することになる医療サービス、介護・障碍者支援、年金制度の3つ、そして公共財の性質が強い公共安全と防衛が挙げられる。子育て支援では、政府への信頼の方のみ有意という結果になった。

 一般的信頼については、子育て支援や学校教育といった分野において特に負担意思と関係していることが注目に値する。また、医療サービスは政府・国会への信頼だけではなく一般的信頼とも関係していることが分かる。

 本記事の趣旨は、何らかのまとまった知見を提示するというよりは、あくまで分析結果の報告をすることにとどまる。ただ、この分析結果は、政府・国会への信頼や一般的信頼と負担の関係は一概に議論できるわけではなく、対象となる公共サービスの特性によって異なる可能性を示唆するであろう。今後、こういった違いが生じる背景を詳しく検討することには価値があるのではないか。

執筆者

竹中勇貴(たけなか ゆうき)
NIRA総合研究開発機構研究コーディネーター・研究員

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