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2023.10.19
2023年は地方分権改革30周年の年である。ここ30年の地方分権改革について、ある程度は進んでいるという共通認識は論者の間でありながら、評価が分かれているところもある。同じ現象に対して、集権的であるとする評価と分権的であるとする評価に分かれることさえある。今後、国と地方の関係を考える際には、このような論者の評価はもちろん人々の意識もより深く考慮していく必要があるだろう。
地方分権改革30周年の2023年
2023年の今年は、地方分権改革の始まりとされる「地方分権の推進に関する決議」からちょうど30年である。NIRA総合研究開発機構が2023年9月に出版したオピニオンペーパーNo.72「地方分権改革の30年を振り返る―国と自治体の役割分担の再定義を」では、国と地方の職員、そして研究者による地方分権改革への現在の評価をまとめている。
地方分権改革には、こうなったら完了であるという状態が存在しない。そのため、どれだけ改革が進もうと、地方分権改革を求める者は常に何かしら新しい課題を発見し、さらなる改革を主張することができる。このことから、地方分権改革は「永遠に未完」であると言われることさえある。
他方で、地方分権が常に正解であるとは限らないことも、この30年で強調されるようになってきた。近年のコロナ禍やDXの推進の中で、生じた問題の原因を地方分権改革に求めて再集権化を主張する議論も見られる。
今回のオピニオンペーパーは、このように様々な見解がある地方分権改革をテーマにしながら、改めて「地方分権改革をどう評価するか」という大きな形で問題を設定した。それによって、地方分権改革がある程度は進んでいるという共通認識を確認しつつ、現状の地方分権改革への評価が論者によって分かれている点も明らかにすることができた。
同じ現象が集権的とも分権的ともいえる
論者によって評価が分かれている点として注目に値するのは、2000年代以降、国が自治体に計画の策定を求める法律が増えていることについてである。地方創生の一環として自治体が策定する「地方版総合戦略」もその1つである。
法律の上では、自治体による計画策定は「努力義務」とされていることが多い。義務ではなく努力義務であれば、自治体は計画を策定しなくてもよい。しかし、自治体が計画を策定することで初めて国から財政支援を得られる場合、自治体としては計画を策定せざるを得ない。よって、努力義務とは言いながらも、実質的には国が自治体を集権的に統制する手段になっていると指摘されることがある。
他方で、そのような実態があるとはいえ、計画を策定するのは国ではなくあくまで自治体である。よって、結果としては計画策定を通じて各自治体が主体的に取り組みを考えることにつながるとも考えられる。これは、地方分権改革の理念と整合的である。
このように、同じ現象であっても論じ方によって集権的とも分権的とも評価することができる。地方分権改革を考える際には、様々な視点からの評価があり得ることを踏まえておくことが特に重要であるといえる。
人々は地方分権改革についてどう考えているか
今回のオピニオンペーパーを踏まえたさらなる考察のポイントとして、地方分権改革と世論の関係を挙げたい。地方分権改革について論者は様々な評価をしているとして、人々はどう考えているのであろうか。地方分権改革をめぐる議論は、住民のためと言いながら、国・地方の関係者と研究者だけの場で住民の声が不在のまま進められてしまうリスクがある。
確かに、1990年代後半から2000年代の地方分権改革は、衆議院の小選挙区比例代表並立制の導入や中央省庁の再編と並ぶ政治・行政の「改革」という世論に乗って実現したかもしれない。しかし、今回のオピニオンペーパーでも指摘されているように、今の人々にとって地方への関心がそれほど高いとはいえない。
同時に、NIRA総合研究開発機構が2023年3月に実施した「第1回政治・経済・社会に関する意識調査」によれば、「お住まいの市区町村」や「自治体や町内会など」への人々の信頼は、「政府」や「国会」に対する信頼よりはっきりと高いというデータもある(図1)。
こういった人々の考え方は何を意味するのであろうか。今後、国と地方の関係を考える際には人々の意識もより深く考慮していく必要がある。
参考文献
宇野重規・松井望(2023)「地方分権改革の30年を振り返る―国と自治体の役割分担の再定義を―」NIRAオピニオンペーパーNo.72
NIRA総合研究開発機構(2023)「第1回政治・経済・社会に関する意識調査(NIRA基本調査)(速報)」
執筆者
竹中勇貴(たけなか ゆうき)
NIRA総合研究開発機構研究コーディネーター・研究員