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敵味方の構造の外から自己批判を繰り返す

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2023.04.27

 ロシアのウクライナ侵攻から1年以上が経つ今、この紛争への関心を風化させずに、今後の動向を注視するべきである。そのためには積極的な情報収集が欠かせない。しかし、戦争下では、敵か味方かという二項対立が生じ、そうした構造の中では、フェイクニュースの拡散だけでなく、それを取り上げるメディアの情報も偏りやすい。偏った情報に流されないようにするために、幅広く情報を収集しながら、常に自分の考えや解釈の自己批判を行なうことが重要だ。

 ロシアによるウクライナへの侵略が終わる兆しは見えない。両国の兵士や民間人の死者数は増え続けている。侵攻から1年以上が経つ今、この紛争への関心を風化させずに、今後の動向を注視するべきだと感じる。その際、「日本と世界の課題2023」で河本和子氏(一橋大学経済研究所ロシア研究センター専属研究員)は、戦争のような敵味方構造の中では、一方を願望や思い込みで支援し、他方を攻撃する言説が生まれるため、構造の外から自分の議論の自己検証を行なうべきであり、そのために良質な情報を幅広く摂取することが重要だと述べている。

メディアのフェイクニュースに関する報道が政治的立場に偏る

 ロシアもウクライナも情報戦を展開し、フェイクニュースも多く飛び交う中で、正確な情報の取得が困難であることが多い。ウクライナ侵攻に関する偽情報を検証するプロジェクト「#UkraineFacts」によれば、現時点で2,950件もの情報が、フェイクニュースとして暴かれている。

 フェイクニュースが蔓延していることを取り上げる報道や記事も増えているが、フェイクニュースに関する報道そのものが、地政学的な関係性を反映しているという指摘もある。G5iOという調査会社が、Google検索で見つけたフェイクニュース報道に関わる268本の記事を、「ロシア非難(元訳:pro-Ukraine)」「ロシアの主張を紹介(pro-Russia)」「中立(neutral)」に分類し、世界のメディアがフェイクニュースをどう取り上げているかを検証した。「ロシア非難」は、主にロシアによる組織的な偽情報の発信行為に対する批判である。「ロシアの主張を紹介」は、西側諸国がロシアに対して「中傷キャンペーン」を展開しているというロシア側の主張の紹介であり、「中立」は、特定の国を非難せず、偽情報が流布している状況を報道している。図表1は、各国の主要媒体に絞って分類したものだ。米英はより「ロシア非難」的な記事が多いのに対して、中東とインドはバランスを取っており、ロシアの主張の紹介も相対的に多い。EU圏は最も「ロシア非難」に傾いている。調査の対象が英語の記事に限られており、また、原文でも言及されていたが、Googleの検閲によりRTやSputnikといったロシアの主要メディアの記事が含まれていない。網羅性の問題はあるものの、この調査から、メディアによるフェイクニュースに関する報道が、政治的立場に沿ったものであり、中立性が保たれていないことが推察できる。

日本の若者は侵攻に関心はあるが積極的に情報収集しない

 メディアの情報で中立性が保たれないなど、戦争下で情報に偏りが生じる中、積極的な情報収集はより一層重要となる。

 日本財団が18歳の若年層に対して行った調査では、ウクライナ侵攻に関心があると回答した人が6割いる一方、ウクライナ侵攻の情報を積極的に収集しているかどうかでは、「興味はあるが、実施していない」が男女ともに5割、「興味がなく、実施したいと思わない」は男女ともに3割近くいた(図表2)。

 関心があるのに情報収集を行わない原因は明らかではないが、行動に移すほど関心は強くないのかもしれない。「関心がない」と回答した2割の人の理由を見ると、「日本の問題に集中すべき」「自分には関係がない」「難しいのでわからない」「長期化による飽き」といったことが挙げられている。しかし、資源の高騰など紛争の影響は日常生活にも及んでおり、平和が日常でなくなるかもしれず、自分に関係がないということはありえない。

 積極的に情報収集を行わず、流れてくる情報を、検証を行わずに受け取っていると、敵対構造に飲み込まれてしまうかもしれない。技術の発達でフェイクニュースはより精巧になり、アルゴリズムが勧めるままに自分と似た価値観の情報に囲まれやすくなっている。偏った情報を摂取しつづけると認知が歪み、その歪んだ認知がまた偏った情報を取得させる。偽情報や偏りのある情報に飲まれないようにするためには、様々な情報を取り入れる努力をし、常に自身の考え方や解釈を批判的に検証することが必要だ。

執筆者

北島あゆみ(きたじま あゆみ)
NIRA総合研究開発機構研究コーディネーター・研究員

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