NIRAナビ|「研究を読み解く」の個別紹介ページです。

RESEARCH OVERVIEW

研究 研究を読み解く

デモクラシー

政策提言ハイライト

政策への国民の理解を得るための情報発信

文字サイズ

2023.02.28

 国民の側には、自分達の声が政策に反映されないという不満がある一方、政府の側にも、自分たちの政策がなぜ、人々に理解されないのかというもどかしさがある。両者の間に横たわる意識の齟齬を解消するためには、政策の透明性を高める、つまり政策の全体像を国民にわかりやすく伝えることが重要だ。それを担うのは、政府、メディアであり、NIRA総研のような中間組織である。

人々と政府の意思疎通を図るためには

 NIRA総研では、去る2月4日に「なぜ、人々の声は政府に届かないのか」と題するフォーラムを開催した。国民の側に、自分達の声が政策に反映されないという不満がある一方、政府の側にも、自分達の政策がなぜ、人々に理解されないのかというもどかしさがある。フォーラムでは、こうした両者の間に横たわる意識の齟齬を解消するにはどうすべきかについて意見が交わされた。

 会合での提案は、政府によるデータをコミュニケーションツールとして活用すべきだというものだ。データは客観的なものである。データで政策の意味をあらわすことができれば、それは人々と政府の間での共通の認識を育めるだろう。わたしの構想No.28「オープンガバナンスの時代へ」でも、内閣官房の犬童周作内閣官房参事官(当時)が地域の官民協働の仕組みとして「官民データの共用(=共有・活用)」をキーワードに挙げている。

 本稿では、こうした情報のオープン化に加え、透明性の重要性を取り上げる。透明性とは、政府がもつ情報をオープンにするだけではなく、政策を簡潔に、そして全体像がわかるように伝えるということだ。複雑な政策体系をシンプルなものとして捉え、重要な骨組みをしっかりと見せていく。おおよそ政策は巨大な体系といえる。年金制度や医療制度、景気対策、防衛、少子化対策など、どれか1つの政策とってみても、その仕組み、費用や財源、執行体制、そして政策効果など全体系を1から把握するには時間と労力が必要だが、そんな余裕のある人はほんの一握りにすぎない。

エネルギー政策を例に考える

 では、私たちは透明性の高い情報を入手できているのだろうか。図1は、最近のエネルギーをめぐる昨今の報道の見出しを抜き出したものだ。ロシアによるウクライナ侵攻によってエネルギー価格が上昇し、昨年末には、政府はエネルギー政策についての基本方針を転換したとの報道があった。その後も、主要な電力会社による電気価格の値上げ申請、GX移行債による資金調達、そして直近では原発の運転期間の延長を巡って原子力規制委員会の賛否がわかれるなど、個別の動きがメディアでは大きく報道される。

 問題は、ほとんどの情報は断片的なものに過ぎず、政策全体の位置づけが不透明であるという点だ。記事を読んだだけでは、エネルギー政策の全体像について把握することはできない。メディアは、一部の切り取られた情報を送り、国民の意識を揺さぶっているにすぎない。また、政策への理解を国民に深めてもらおうという意図も感じられない。

 それは、個々の出来事が相互に関連づけられていないからだろう。つまり、エネルギー政策の場合には、政策の土台となる第6次エネルギー基本計画との関係、再エネ政策と原子力発電の位置づけ、財政的な裏付け、原子力の増設か運転延長か、これらの課題を関連付けて説明し、政府は最終的に何を目指しているのかなど、エネルギー政策の全体像を理解する上で不可欠な事項が、メディアが発する記事から抜け落ちている。

オープンガバナンスの意味は何か

 宇野重規理事は、オープンガバナンスの意味は「この政策が必要なのか、そのコストとメリットを市民に理解してもらうことで、政策の正当性が強化されるからである」と述べた(再掲わたしの構想No.28)。人々に政策の全体像を把握してもらうことは、個々の政策のメリットやデメリットの認識を深めることにもなる。全体と個々が相互に関連づけられ、何が全体の政策を支えている骨格なのか、また、どういうインセンティブが働いて全体の流れが形成されているのか。これらの点を理解することで、政策の長所と短所が明確となり、人々と政府との間で政策について議論を深めることができる。

 そのためには、政府やメディア、そしてNIRA総研のような中間的な組織が、手間をかけて政府の透明性を高めるための情報発信に本格的に取り組むことが必要だ。フォーラムの参加者からも、政策についての良質な情報を求める声が多かった。政策に関わる情報の質を高め、政府の透明性を高めるための取り組みを意識的に進めていく。それが「なぜ、人々の声は政府に届かないのか」に対する1つの答えである。

 NIRA総研は、政策を議論するための材料を提供したいと考えている。一般の人々が政策の全体像を理解し、自身の意見をもてるように、透明性の高い情報を発信していく(例えば「政策共創の場」)。そして、政府と国民との間に真の議論を巻き起こす。それこそが、国民と政府との間の距離を縮め、民主的な社会を築くための唯一の方法である。

参考文献

NIRA総合研究開発機構(2017)「オープンガバナンスの時代へ」わたしの構想No.28
NIRAフォーラム2023「なぜ、人々の声は政府に届かないのか」研究報告書

執筆者

神田玲子(かんだ れいこ)
NIRA総合研究開発機構理事・研究調査部長

  • twitter
  • facebook