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メタバースの可能性:産官学の連携と持続可能な仕組みを整えた発展を目指せ

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2022.12.27

 VRやARなど、既存のデジタル諸技術の汎用性を高めた「メタバース」が、言葉として世界の流行になっている。しかし、日本国内の社会調査を見ると、メタバースの浸透度は高くない。様々な分野への応用が期待されるメタバースが発展するためには、産官学の連携と持続可能な仕組みを考慮し、ユーザーのニーズに応えるサービス展開が必要である。

 2021年秋にFacebook社が社名を"Meta"に変更したことを契機に、「メタバース」という言葉が世界の流行語となった。VRやARなど、既存のデジタル諸技術の汎用性を高めたメタバースを利用した様々なサービスは、人々の生活をより便利に、充実したものにすることが期待される。しかし、各種の国内社会調査を見ると、現状メタバースが人々の生活に浸透しているとは言い難い。メタバースが人々に浸透するには何が必要であるのか。

メタバースの人々への浸透状況

 人々がメタバースをどのように捉えているのかについては、国内でも様々な調査が行われている(注1) 。メタバースという言葉そのものを認知しているかについては、クロス・マーケティング社の調査では、回答者(15歳~49歳)の61%、MMD研究所の調査では回答者(18歳~49歳)の43%が認知しているとの回答であったという。しかし、その詳細の認知や利用経験となると、人々の生活への浸透度は低いことがうかがえる。例えば、クロス・マーケティング社の調査における詳細の認知(助成想起(注2) )では、「仮想/拡張/複合現実」、「アバター」、「疑似体験」、「ゲーム」や「暗号通貨・NFT」、「SNS」といったワードがメタバースから想起されているという。しかし、「ゲーム」でも認知のポイントは回答者全体で2割程度にとどまる。さらにMMD研究所の調査では、実際にメタバース関連サービスの利用経験がある回答者は、全体の5.1%だという。

 わたしの構想No.59「メタバースが開く〝新〟たな現実」においては、上述した調査で認知されていたゲームといったエンタメ分野以外にも、医療(Holoeyes株式会社取締役兼CTO:谷口直嗣氏)や教育(立命館大学政策科学部教授:稲葉光行氏)分野での応用が紹介された。しかし、各種社会調査を見ると、これらの分野での応用についてはまだ人々に浸透していない。

産官学の連携と持続可能な仕組みを考慮した発展を

 人々への浸透がいまひとつである現状に対応し、メタバースが多方面で発展するには、産官学の連携と、一度作り上げたサービスが提供終了しても、そのサービスに用いられた基礎的なシステムを他サービスに応用してゆくという意味での持続可能な仕組みづくりが急務である。

 前者は、各企業や団体、研究機関が個別に取り組むメタバース関連の事業や研究を連携させることだ。技術の向上があっても、その成果をユーザーに還元できなければメタバースの発展に繋がらない。わたしの構想No.59で藤井直敬氏(株式会社ハコスコ代表取締役)が述べるとおり、「『技術のための技術』で、エンジニアや事業者が作りたいものを作る、いわば『プロダクトアウト』の状態」とならないことが重要である。産官学が連携することによって、適切なユーザーニーズを共有し、共通の社会的な目的設定を行った上でサービスを展開することが必要であろう。2022年7月に行われた『Metaverse Japan Summit 2022』のように、メタバースの社会実装のために何が必要であるか、産官学の枠組みを超えて討論するイベントが開催されるようになっている。資金面でのスタートアップ支援を行うファンド設立の構想や、サービスに金融性を持たせる方が利用者を手っ取り早く増やすことができるという意見、特殊な機器でなく利用者が手軽に利用できる機器(スマホなど)を中心とした空間設計を優先すべきといった意見など、こうした議論の場において挙げられた点も、さらに多くの人々に共有され、行動に移されるべきだ (注3)。

 後者は、メタバース関連の諸サービスが、『仮想空間上のハコモノ』で終わらぬよう、持続可能な仕組みづくりが必要である。メタバースサービスが地方創生に関連する政策に応用されることが期待されているが、2022年7月の「日経メタバースコンソーシアム未来委員会」(注4) で指摘されているとおり、例えば公的な補助金で自治体がメタバースを作成したとしても、そのサービスが継続的に利用されず「ハコモノ」として放置されるのでは意味がない。仮にそのサービスが終了するとしても、その既存のシステム(例えば作成した空間のプラットフォームや、外部サービスとの連携機能など)を転用して新たなサービスへ移行・応用ができる仕組みづくりも必要であろう。

参考文献

NIRA総合研究開発機構(2022)「メタバースが開く〝新〟たな現実」わたしの構想No.59

脚注
1 挙げた2つの調査(いずれもインターネット調査)の方法・概要は以下を参照されたい。
クロス・マーケティング社調査「メタバースに関する調査(2022年)浸透状況編」2022年9月8日.
MMD研究所調査
「メタバース(仮想空間)の利用経験は5.1%、認知は43.4%」 2022年5月18日.
2 調査者側があらかじめ関連する言葉などを示しておく調査手法。
3 「Metaverse Japan Summit 2022」 METAVERSE JAPAN
4 「 新たな可能性秘めたメタバース 産官学で取り組みを『日経メタバースコンソーシアム第1回未来委員会』」日経BizGate 2022年7月27日.

執筆者

大森翔子(おおもり しょうこ)
研究コーディネーター/研究員

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