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再エネ推進の課題を誰もが自分事とするために

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2022.10.31

 脱炭素社会の実現には、不断の取り組みが必要だ。短期的な利益にとらわれず、環境問題のような長期の課題に人々の目を振り向けるには、どういった方策が有効だろうか。一例として、地域レベルで自治体と住民・企業が主体となって再生可能エネルギー発電所開発を推進するコミュニティー・チョイス・アグリゲーション(CCA)の仕組みを紹介する。社会の課題に対する市民の向き合い方を考える一助となろう。

脱炭素化の道のりに猶予はない

 燃料価格の上昇による電気料金の高騰が各国を直撃している。アメリカでは今年夏、全世帯の6分の1に相当する約2000万世帯が公共料金を滞納していることが報じられた(注1)。各家庭が電気代を節約しようと苦心する中、電力供給側は気候変動への対応という待ったなしの課題にも取り組まねばならない。

 わたしの構想No.53​「脱炭素社会 実現への道のり」において、松村敏弘氏(東京大学社会科学研究所教授)は、再生可能エネルギーへの転換や脱炭素化のイノベーションを推進するものが、その価値に見合う報酬を得られる仕組みが必要だと指摘する。また、それを安価に供給できるものが、競争の結果生き残る制度が望ましいと述べている。再生可能エネルギーの普及へ向けて不断に歩んでいく社会にするには、どうすればよいだろうか。

市民が主体に入る仕組み

 取り組みの一例として、コミュニティー・チョイス・アグリゲーション(Community Choice Aggregation, CCA)という電力購入システムがある。アメリカのマサチューセッツ、ニューヨーク、カリフォルニアなどいくつかの州が法制化し、市や郡レベルでCCAが設立され、その地域内の家計・企業・地方政府の電力需要を集約して電力を調達したり、発電事業者と協力して電源開発を行っている。CCAの多くは非営利団体で、料金収入で運営される。目的は、まず競争的で安価な電力料金を得ること、そして、よりクリーンで効率性に優れた電力供給に転換すること、顧客が契約プランを選択する自由、地域の雇用創出や電力レジリアンスの向上などが挙げられる。CCAを通じて地方自治体と地域住民・企業が主体となって、この目的の達成に取り組んでいるという。

 例えばマサチューセッツ州(注2)のCCAは、卸電力の一括購入などによって既存のユーティリティよりも安価なサービスを実現している。顧客には、州法で要求する最低水準の再生可能エネルギー割合を満たす安価なプランや、再生可能エネルギー100%で料金が高めのプランが提示される。グリーン自治体アグリゲーションとよばれる発展的なCCAの場合、基本プランは州法の要求をやや上回る割合となっており、顧客はオプト・アウト式で既存のユーティリティや他のプラン(注3)を選択できる。新規の再生可能エネルギー発電所の建設を需要側から働きかけるような仕組みだ。

 アメリカのグリーン電力任意市場の推移を示した図1によると、CCAは販売量の割合としてはそれほど多くないものの、参加する需要家数で見ると近年大きく伸びている。CCAによって多くの市民を巻き込み、再生可能エネルギーへの転換にかかわる選択に自然と向き合う状況をつくることは、脱炭素社会の実現に向けた重要な一歩ではないだろうか。

長期思考へ、いかにシフトするか

 再生可能エネルギーを推進する上でもう一つ大切なのは、将来の利益について市民が考え、行動することだ。目の前のコストをできる限り抑えたいと考えるのは人間の常である。ローマン・クルツナリック氏(文化思想家)は、そうした短期思考で覆われている現代に警鐘を鳴らす。わたしの構想No.58「「長期思考」は未来を変える」の中で同氏が主張するように、民主主義の時間軸を延ばし、将来世代にとっても公正な議論を行うよう、社会の構造そのものを変える必要がある。

参考文献

NIRA総合研究開発機構(2021)「脱炭素社会 実現への道のり」わたしの構想No.53
NIRA総合研究開発機構(2021)「「長期思考」は未来を変える」わたしの構想No.58
中山琢夫(2020)「CCAによる再生可能エネルギー供給」京都大学大学院経済学研究科再生可能エネルギー経済学講座コラムNo.184
中山琢夫(2020)「マサチューセッツ州における電力小売の自治体アグリゲーション」京都大学大学院経済学研究科再生可能エネルギー経済学講座コラムNo.193

脚注
1 “米で6分の1の世帯が公共料金を滞納-電気代高騰で過去最悪の危機か”, Bloomberg, 2022年8月24日(2022年10月26日アクセス)。
2 同州は電力小売自由化を実施済み。
3 再生可能エネルギー割合がより高いプランへの変更はオプト・アップ、低いプランへの変更はオプト・ダウン。

執筆者

関島梢恵(せきじま こずえ)
NIRA
総合研究開発機構研究コーディネーター・研究員

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