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ワクチン忌避者の目線で、ワクチンへの信頼の向上を目指す

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2021.12.28

 先進諸国を中心にワクチン接種率の伸び悩みが始まっている。ワクチン接種を躊躇している人たちにどう働きかけるかは、パンデミック終息に向けた大きな課題になる可能性がある。日本の調査結果によると、若年層ほどワクチン忌避行動をとり、ワクチンの副反応や効果への疑念が主な理由となっている。「ワクチンへの信頼」をいかに高めるか、国内外の取り組みを参考に検討する。ワクチン忌避者の目線に立ったアプローチは一考に値するだろう。

伸び悩み始めたワクチン接種

 新型コロナウイルスは変異を繰り返し、依然として、私たちの健康に対する重大な脅威だ。そのリスクを減らすためにワクチン接種が有効であることは、多くの人に支持され、ワクチンの普及とともに接種率が伸びてきた。しかしここにきて、ワクチン接種が進んできた先進諸国を中心に、接種率の伸び悩みが始まっている。日本も例外ではない(図表1)。ワクチン接種を躊躇している人たちにどう働きかけるかは、パンデミックの終息に向けて、大きな課題になる可能性が高い。

「ワクチンへの信頼」を高めることが鍵

 どんな人がどういった理由から、ワクチン忌避行動をとっているのだろうか。慶應義塾大学経済学部大久保敏弘研究室とNIRA総研の共同調査である「第5回テレワークに関する就業者実態調査(速報)」によると、2021年9月時点で、新型コロナウイルスのワクチンを「接種しない」と回答した就業者は14パーセントだった(図表2)。男女間に差はほとんどみられないが、若年層ほどワクチン忌避の傾向がみられ、「接種しない」と回答した割合は、10~20代で23パーセント、30代で20パーセントに上った(注1)。

 また、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センターの調査では、ワクチン忌避の理由として、回答割合が高いものから、「副反応が心配だから」(73.9パーセント)、「あまり効果があると思わないから」(19.4パーセント)、「ワクチンを打ちに行く時間がないから」(8.8パーセント)、「自分は感染しないと思うから」(7.7パーセント)、「自分は重症化しないと思うから」(7.5パーセント)と続く(注2)。ワクチン忌避の背景は多様だが、若年層を中心に、ワクチンの副反応や効果への疑念を払拭し、「ワクチンへの信頼」を高めることが、ワクチン接種率を高める鍵になりそうだ。

公開の場での発信、討論が信頼の礎

 ワクチンへの信頼を高めるために、政府や科学者が信頼を得ることは、言うまでもなく重要だ。スウェーデンのカロリンスカ大学病院外科医の宮川絢子氏は、オピニオンペーパーNo.52で、スウェーデンでは、「各省庁のデータが公開され、誰もがアクセスすることができる。各省庁の代表者は毎日のように記者会見を開き、データの解析や今後のプランについて質疑応答を行っている。専門家がリーダーシップを発揮して情報発信をきちんとしていることで、国民はその政策に安心感を持つことができている」という。ドイツのサステナビリティ上級研究所(IASS)サイエンティフィック・ディレクターのオートウィン・レン氏も、オピニオンペーパーNo.54で、ドイツでは研究機関への信頼が高く、科学者は政策決定や対応についての議論を公開の場で重ね、政府はエビデンスに基づく政策決定を推進するという。情報の透明性、公開の場での積極的な発信、討論が、政府や科学者への信頼の礎となっていることが伺える。

ワクチン忌避者の目線に立つ

 こうした情報のオープン化は極めて重要だが、政府の供給者目線で、一方的に情報発信するだけで十分だろうか。一般社団法人オープン・ガバナンス・ネットワーク代表理事の奥村裕一氏は、わたしの構想No.46で、市民に届く効果的な政策をつくるためには、「人びととの対話や観察を通じて、本人さえ気付いてない根底に潜む本音を引き出し、あるいは本音に気付くこと」が重要と説く。これをワクチン忌避のケースに当てはめると、ワクチン忌避者の声を可視化し、「共感」を軸に、ワクチン忌避者に届くメッセージを検討することが、行動変容を促すアプローチになり得る。

 現に、フランス政府の諮問機関である経済・社会・環境評議会(CESE)は、市民にワクチン接種を受ける理由や受けたくない理由を聞くためのウェブサイトを設けている(注3) 。例えば、「長期的な安全性も証明されていないのに、なぜいつもワクチンは「安全」だと同じ答えが返ってくるのでしょうか?」、「2020年の年齢層別累積死亡数を考慮して、ワクチン接種の優先順位は決まっているのでしょうか?」など、信頼性、副作用、優先接種などについて、市民の様々な質問が寄せられ、1つひとつに回答が示されている。

 同調圧力が働きやすい日本で、ワクチンを忌避する権利を守りながら、忌避者の声を集め、対応してことは容易ではないだろう。しかし、ワクチン接種を推進する立場の側が、忌避者の目線に立ち、安心感を求める人々のニーズに応えていくことは、ワクチンへの信頼を呼び、ワクチン接種を躊躇している人の背中を押すことにつながるかもしれない。

参考文献

大久保敏弘・NIRA総合研究開発機構(2021)「第5回テレワークに関する就業者実態調査(速報)」
翁百合・ペールエリック ヘーグべリ・宮川絢子(2020)「スウェーデンはなぜロックダウンしなかったのか-憲法の規定や国民性も背景-」NIRAオピニオンペーパーNo.52
翁百合・オートウィン レン・アンスカー ローセ(2020)「ドイツのコロナ対策から何を学べるか-医療態勢・機動的対応・財政運営-」NIRAオピニオンペーパーNo.54
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター (2021)「新型コロナウイルスワクチン忌避者は1割。忌避者の年齢・性別差、理由と関連する要因を明らかに:日本初全国大規模インターネット調査より」
NIRA総合研究開発機構(2020)「デザイン思考で人間中心の政策を」わたしの構想No.46
Okubo, T., Inoue, A., & Sekijima, K. (2021). Who Got Vaccinated for COVID-19? Evidence from Japan. Vaccines, 9(12), 1505.

脚注
1 同データを用いて、ワクチン接種者と忌避者の特徴の違いを詳細に検証した研究としてOkubo et al (2021)がある。
2 概要は国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター (2021)「新型コロナウイルスワクチン忌避者は1割。忌避者の年齢・性別差、理由と関連する要因を明らかに:日本初全国大規模インターネット調査より」を参照されたい。
3 https://participez.lecese.fr/project/passeport-vaccinal/questionnaire/que-pensez-vous-du-passeport-vaccinal

執筆者

井上敦(いのうえ あつし)
NIRA総合研究開発機構研究コーディネーター・研究員

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