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研究開発投資でイノベーションの土壌を育む

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2021.04.27

 イノベーションの実現には、研究環境や支援体制が鍵を握る。しかし、日本の研究支援の仕組みや規模に対し、課題を指摘する声もある。政府は今年3月、2050年カーボンニュートラルに向けた「グリーンイノベーション基金」をスタートさせた。予算総額2兆円という、日本では他に類を見ない大型の研究支援プロジェクトだ。この基金から革新的な技術は生まれ育っていくのか、展開が注目される。

研究開発をめぐる公的な支援の重要性

 わが国は新型コロナのワクチン開発で出遅れた。海外からの輸入頼みのワクチンは、接種の遅れや供給量不足が報じられ、先が見通せない。開発の遅れをとった背景には、「平時の研究開発の蓄積の差が大き過ぎる」との声がある(注1)。mRNAワクチンを開発した米国モデルナ社は、もともと2013年に国防総省から約27億円、2016年には保健社会福祉省から約135億円の支援を受けて技術開発を続けていたことが、迅速なワクチン開発につながったという指摘だ。

 ワクチンに限らず、研究環境や支援体制はイノベーションを左右する。わたしの構想No.32「第四次産業革命に挑む」で、清水洋氏(早稲田大学商学部教授)は、「産学連携の掛け声のもと、日本では、特許取得や上市状況など、目に見える成果が求められる過程で基礎研究が減少してきた一方で、米国は、基礎研究を増やしながら産学連携を進めてきた」と両国の違いを挙げ、「基礎研究の評価の見直し」を政府に求めている。国の研究機関や大学、民間企業が協働して技術を生み育てられる仕組みの構築・見直しは鍵となるだろう。

イノベーションが不可欠な脱炭素化

 重要性が増す研究領域の1つに、グリーンイノベーションがある。わたしの構想No.53「脱炭素社会 実現への道のり」でも、貞森恵祐氏(IEAエネルギー市場・安全保障局長)が、「2050年排出実質ゼロ実現のために必要な排出削減の半分は、まだ実用化されていない技術を前提としている」と指摘し、政府による積極的な技術開発支援が必要だと述べている。

 政府も支援に力を入れていることがうかがえる。今年3月に「グリーンイノベーション基金」として、2兆円が国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に造成された。図表1は日本でこれまで実施されてきた研究費支援の例である。「グリーンイノベーション基金」の予算は、大型研究プロジェクトとして話題となった内閣府の「革新的研究開発プログラム」(ImPACT)を大きく超える。実施主体に「社会実装までを担える、企業等の収益事業を行う者」を想定し、10年間で研究開発・実証から社会実装までを目指すという野心的な内容は、新技術への切迫したニーズの表れだろう。

今後の研究開発投資への期待

 この基金の成果を最大化するため、実施主体の取り組みを不十分と判断した場合には、事業の中止や委託費の一部返還といった制約が働く仕組みが導入される。また、4つの機関が連携するガバナンス体制によって透明性・実効性が確保される。巨額の予算に相応の仕組みといえるだろう。ただし、基礎研究から社会実装までを10年でやり遂げるには、実施主体が研究開発を迅速に進めていける環境が肝要だ。報告手続き上の手間で無用に時間をロスさせないといった、使い勝手が良くバランスの取れた仕組みが構築され、イノベーションが実現されることを期待したい。

執筆者

関島梢恵(せきじま こずえ)
NIRA総合研究開発機構研究コーディネーター・研究員

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