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コロナ禍を期とした社会のデジタル化推進を

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2021.01.27

 目下、我が国は経済・社会のデジタル化という点において諸外国に後れを取っている。昨今のコロナ禍で、元来注目されつつあったテレワークが脚光を浴びているが、テレワークの導入には様々な障壁があるとNIRAと慶應義塾大学教授大久保敏弘氏の共同調査は明らかにしている。我々はコロナ禍から何を学ぶべきなのか。今一度、確認をしたいと思う。

周回遅れのデジタル化

 目下、我が国は経済・社会のデジタル化という点において諸外国に後れを取っている。日本の ICT投資は米国、英国や中国と比較しても低い水準に留まってきた(総務省「令和元年度情報通信白書」)。結果、日本企業のRPA・AIの導入やフィンテック、ビックデータの分析・活用等を含む社会のデジタル化は「周回遅れ」と揶揄されている。

 こうした状況を挽回すべく、政府は「デジタル化を原動力とした「Society5.0」の実現」を目指すとしてきた(「経済財政運営と改革の基本方針 2019」)。政府も菅内閣の下、デジタル化を推進するため肝煎りの看板政策としてデジタル庁を発足させるとした。今後、このデジタル庁の主導の下、「デジタル技術を徹底的に活用し、行政のあらゆるサービスが、利用者にとって最初から最後までデジタルで完結する社会」(「デジタルガバメント実行計画」)を目指すことになるだろう。

日本社会とテレワーク

 従来テレワークは社員の通勤の負担を無くし、生産性を向上させる新しい働き方であると注目されてきた。しかし、NIRAは慶應義塾大学教授大久保敏弘氏の共同調査でテレワーク導入には大きく3つの障壁があることを明らかにした。第1に、会社や組織の問題。例えば、ファイルの共有、電子決済、データや書類の電子化、情報のセキュリティーなどである。第2に、働く人を取り巻く環境。例えば、自宅にPCや周辺機器がそろっていない、子供の世話に追われる、といった家庭環境や、同僚や取引先の仕事の成果や進捗が把握しにくい、仕事の成果が評価されにくいといった仕事の環境である。第3に個人の能力や意識。ICTの知識不足、同僚との十分なコミュニケーションがとれない、不安に陥るといったことである。筆者も長期にわたってテレワークを続けているが、シンクタンクの研究員という比較的テレワークをしやすい職業であるにも関わらず、この3点の問題点は多少なりとも感じている。例えばPCの性能不足やインターネット環境、プリンターなどの資本装備の欠如、決裁手続きの煩雑さなどは、業務を遂行する上で、筆者以外のテレワーカーも同様の障壁に直面していることと思う。この点において、筆者は、日本企業は円滑なテレワーク推進のための投資を行うべきであると考える。21世紀に入り、20年が経過した今、昭和的な社会環境では、もはや先進国としての地位すら危うい。テレワークでも生産性が落ちない、むしろテレワークで生産性が向上するような環境を企業が率先して作るべきである。我々は今、バブル崩壊以降、ICT投資を渋ってきた日本企業のツケを払わされているのである。

コロナ禍を期として社会を変革せよ

 我々はコロナ禍をどう捉えるべきだろうか。筆者は、20世紀末以降、停滞感している日本の生産性を高めるきっかけにすべきだと考える。「財務基盤が厚く、企業体力が高い企業が多い日本は、リーマンショックなどの経済危機時の耐性は高い半面、危機を教訓にしようとする意欲が低い傾向があり、東日本大震災の当時、オンラインで働くという動きが一部出たが、一過性にとどまった。」と、学習院大学教授宮川努氏は指摘している。今回のコロナ禍でも社員の在宅勤務などが求められており、2度目となった2021年1月の緊急事態宣言では、出勤者の7割削減という強い在宅勤務目標が政府から提言されている。図表1では日本のテレワーク率は4~5月の緊急事態宣言時には一時的に上昇したが、その後下降している。我々はこのコロナ禍を期にテレワークを推進し、経済社会のデジタル化を加速させ、生産性向上へ、抜本的な変革の原動力とするべきである。テレワークに代表されるデジタル化を促進し、この非常事態を乗り切ると共に、今後の利便性を高める社会変革を起こすべきである。

増原広成(ますはら ひろなり)
NIRA総合研究開発機構研究コーディネーター・研究員

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