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新型コロナ感染症

政策提言ハイライト

自治体の首長が変革を起こしやすい環境整備を

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2020.12.28

 コロナ禍という緊急事態を乗り越えるためには、国や自治体が政治的リーダーシップを最大限に発揮し、対策を進められるかどうかがカギとなる。そこで、NIRA総合研究開発機構は、大久保敏弘教授・辻琢也教授・中川雅之教授と共同で、全国の市区町村長にアンケート調査を行った。その結果、政策運営において「漸進型・取引型」の首長が多いことがわかった。社会情勢が急激に変化する現代においては、「漸進型・取引型」よりも、「鼓舞型・変革型」の要素を強め、改革を進めることが求められる。今後、首長が変革を起こしやすいような環境整備を進めることが重要な課題となるだろう。

首長の政治的リーダーシップがカギとなる

 2020年12月に入り、日本国内では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が再燃している。人々の健康に与える悪影響はもちろん、経済の停滞や医療現場のひっ迫など、対処すべき問題は山積しており、かつ、終わりも見えない中で、非常に厳しい局面にあるといえる。この緊急事態を乗り越えるためには、国や自治体が政治的リーダーシップを最大限に発揮し、対策を進められるかどうかがカギになってくるだろう。とりわけ、自治体の首長がどのような対策をとっているのかは注目すべき点だ。なぜなら、自治体は国よりも住民との距離が近く、また、地域によって感染状況や保有する人的・物的資源などが異なるためである。

首長が重要視する政策や、政策運営における課題とは

 NIRA総研では、大久保敏弘教授(慶應義塾大学)・辻琢也教授(一橋大学)・中川雅之教授(日本大学)と共同で、全国の市町村長、東京23区長を対象に、政策意識とリーダーシップのあり方に関するアンケート調査を実施し[2020年10月12日(月)~11月30日(月)]、その速報版を公表した。同調査では、コロナ禍において市区町村長がリーダーシップを発揮してきた政策や、自治体運営において抱えている課題などについて質問した。また、Big Fiveとよばれる手法により、首長のパーソナリティの特性を測定し、一般の人々に聞いた、2019年の慶應義塾家計パネル調査(KHPS調査2019)の結果と比較した。

 コロナ対策として、リーダーシップを発揮して取り組んできた政策として回答が最も多かったのは、「住民への積極的な情報発信・公開」(64%)であった(図表1)。個人情報保護に細心の注意を払いつつも、感染者の出現情報を迅速・正確に得て、的確に感染症対策に反映させることが首長のがんばりどころとなっていることがわかる。わたしの構想No.51「未知の感染症に挑む自治体トップの覚悟」においても、稲村尼崎市長が、コロナ禍で感染者のプライバシーをどこまで守るべきかという問題に直面した、と語っている。また、稲村市長は、周辺自治体の首長と頻繁に情報交換し、他都市の経験を教訓としながら対策を進めた。

 改革を進める上での障害として回答が最も多かったのは、「財源が不足していること」(76%)、次いで多かったのは、「職員の数や質が不十分であること」(57%)であった。高齢化の進む分権型社会においては、国や県との調整といった自治体外の問題よりも、自治体内の合意形成などに政治的リーダーシップが期待されていることがわかる。

首長には鼓舞型・変革型のリーダーシップが求められる

 Big Fiveの分析結果によると、首長は一般人の調査結果と比較し、外向性や勤勉性、開放性が高く、神経症傾向が低いことがわかった(図表2)。また、リスクについての考え方を聞いたところ、首長は一般人と比較し、リスク愛好的であることがわかった。これらは政治的リーダーシップに必要な要素であるといえる。しかしながら、政策運営の実際を尋ねると、「鼓舞型かつ変革型」(周囲を鼓舞しながら現実を変革していくタイプ)よりも、「取引型かつ漸進型」(関係者の合意を取りつつ時間をかけて少しずつ変えていくタイプ)の市区町村長が多いことがわかった。このギャップは、かつて、取引によって関係者の合意を形成し、漸進的に改革を進めていくことの方が、より実効的であった日本社会の特質を反映しているものと考えられる。だが、社会情勢が急激に変化する現代においては、鼓舞型・変革型の要素を強め、実効的に改革を進めることが求められる。そして、首長が変革を起こしやすいような環境整備を進めることが重要な課題となるだろう。

渡邊翔太(わたなべ しょうた)
NIRA総合研究開発機構研究コーディネーター・研究員

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