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社会の分断を促進させる感情的分極化を、いかに対処するか

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2020.11.30

 2020年11月3日に行われたアメリカ大統領選挙において、アメリカにおいて長らく指摘され、問題視されてきた社会の分断が、改めて注目された。こうした社会の分断は、アメリカに限らず、多くの国で問題となっており、その様相と原因を捉えるために、様々な分野で多くの調査が進められている。例えば、コロナ禍で、その支持に陰りが見え始めたと言われる右派ポピュリズムも、各国における分断が1つの原因だと言われている。

社会の分断に伴う人々の感情的な分断

 こうした政治的な態度、意見による社会の分断は、NIRAわたしの構想No.31「ポスト・トゥルースの時代とは」や、書籍『デジタル・デモクラシーがやってくる!−AIが私たちの社会を変えるんだったら、政治もそのままってわけにはいかないんじゃない?−』で多くの識者が主張しているように、集団分極化(group polarization)と言われる現象である。集団分極化は、主に、似通った意見を持つ集団内でのコミュニケーションや情報収集によって、徐々に集団内の意見が極端なものになり、結果的に対立する集団間の意見が両極に寄っていくという現象だ。

 さらに近年では、集団分極化が指摘してきた、主に政党や党派などの所属する集団内での意見の極端化に加えて、愛着や強い支持、さらに別の集団への感情的な敵対心が高まるといった感情的分極化(affective polarization)が生じていると指摘されている。こうした感情的分極化は、敵対心に基づいているため、集団間の意見の隔たりを深め、分断の解決をより困難なものにし、大きな政治的な混乱を生む可能性がある。

アメリカと日本における感情的分極化

 Iyengar et al.(2019)は、アメリカの代表的な選挙時調査であるAmerican National Election Studies(注1)の1980年から2016年のデータを用いて、感情温度と呼ばれる政党に対する好悪を示す指標を用いて、アメリカ社会における感情的分極化を分析している。具体的には、回答者が支持する政党への好悪と、支持していない政党へ好悪、さらにそれらの差を、感情的分極化として、それぞれの平均値の時系列的な変化を示した。このアメリカの感情的分極化を示す図表1からも、80年代から2000年あたりまでは、感情的分極化に大きな変化がなかったものの、2000年以降から、支持政党への好感は変わらないものの、支持していない政党に対する反感が高まり、2010年以降には、感情的分極化の度合いが高くなっていることがわかる。

 では、日本における感情的分極化はどのようになっているのであろうか。それを確認するために、東京大学谷口研究室と朝日新聞社が国政選挙の直後に行う世論調査(注2)の結果を用いて、先ほどと同様の分析を行った(図表2)。日本の場合、アメリカと異なり、政党数が多いため、回答者が支持する政党以外の政党への感じる好悪の平均値となっており、一概に分断として評価するのは難しい。しかしながら、日本も、アメリカと同様に、支持政党によって、感情的分極化が少なからず生じていることが確認できる。分析した2012年の政権交代以後の選挙では、有権者の支持政党ごとに感じる感情的分極化が30程度を推移しており、2010年前後のアメリカと同様の値となっている。

感情的分極化が引き起こす政治的な課題

 感情的分極化の多国間比較を行う研究(注3)では、現在のアメリカの感情的分極化は、先進国の中で、平均水準より高く、かつ、進行していることが明らかになっている。これらの研究結果や、今回のアメリカ大統領選挙をめぐる状況を踏まえると、市民の間に支持政党以外が推進する政策への反発を生み出し、かつ政党間の合意形成にも大きな障害となってしまう可能性があり、アメリカ社会における分断、そしてそれに伴う政治的な不安定さは、今後も続くことが予想される。

 このような政治的な不安定さは、すでに現実社会にも影を落としており、例えば、人々がCovid-19を脅威とみなすかどうかも、支持する政党で異なり(注4)、本来、国として同じ方向を向いて、対策を行わなければならない感染拡大の抑制に関して、その目処が立たない一つの原因となっている。こうした支持政党に基づいた感情的分極化の進行は、支持政党以外が進める政策に対して、強い拒否を示し、社会問題の解決を阻み、社会の分断をさらに拡げる可能性が大いにある。

 日本においても、例えば、SNSなどでは、様々な政策に関して、イデオロギーによる対立が徐々に大きく目立つようになってきており、何らかの対応が必要な状況となりつつある。こうした状況を踏まえると、今後、日本でもアメリカのように支持政党やイデオロギーなどによる感情的分極化が進行し、社会の分断が大きな課題となってしまうだろう。

 こうした感情的分極化は、SNSなどのインターネットの影響とみなされることが多いが、それよりも政治制度や選挙制度、人種・宗教などの社会的な属性、経済格差が主要な原因であると言われている(注5)。つまり、政治がこうした社会問題の解決を進めなければ、人々の間の感情的分極化は、解決するどころか、より深刻なものとなり、政治的な不安定さを生じさせる可能性がある。こうした分断の原因となる社会問題に対して、政治だけでなく、社会としても、一層の危機感を持って、取り組んでいかなければならない。

参考文献

NIRA総合研究開発機構(2017)「ポスト・トゥルースの時代とは」わたしの構想No.31
谷口将紀/宍戸常寿(2020)『デジタル・デモクラシーがやってくる!−AIが私たちの社会を変えるんだったら、政治もそのままってわけにはいかないんじゃない?−』中央公論新社
Iyengar, S., Lelkes, Y., Levendusky, M., Malhotra, N., & Westwood, S. J. (2019). The origins and consequences of affective polarization in the United States. Annual Review of Political Science, 22, 129-146. ​

脚注
1 https://electionstudies.org/
2 東京大学谷口研究室・朝日新聞共同調査. http://www.masaki.j.u-tokyo.ac.jp/utas/utasindex.html
3 Gidron, N., Adams, J., & Horne, W. (2020). American Affective Polarization in Comparative Perspective. Elements in American Politics. The Washington Post. “Americans hate the ‘other side’ in politics. But so do Europeans.” 2020.11.6.
4 Tyson, A. (2020). Republicans remain far less likely than Democrats to view COVID-19 as a major threat to public health. Pew Research Center.
5 Gidron, N., Adams, J., & Horne, W. (2018). How ideology, economics and institutions shape affective polarization in democratic polities. In Annual Conference of the American Political Science Association.

執筆者

澁谷壮紀(しぶたに まさき)
NIRA総合研究開発機構研究コーディネーター・研究員

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