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5Gと連動、AR/VR...xRのサービス開発に出遅れるな

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2020.10.15

 VR(仮想現実)やAR(拡張現実)の開発は、これまでゲームなどのエンターテインメント分野が先行してきたが、5Gの普及で、ビジネスユースが大きく進展する見込みだ。しかし、世界の成長予測に比べ、日本の市場規模は鈍い伸びにとどまると予測されている。ここ数年の取り組みが世界での主導権を決める可能性がある。5Gの本格運用に向けて、AR/VRの積極的なサービス開発が望まれる。

5G普及とともに、AR/VRはビジネスユースの時代へ

 2020年3⽉に日本で商用サービスが開始された「5G」、本格運用はこれからだ。5Gは来るべきIoT時代の重要な基盤である。その普及により、暮らしや社会は大きく変わると予想されている。注目したいものの1つに、AR(拡張現実)・VR(仮想現実)など「xR」を活用するサービスがある。5Gは、高速・大容量、超低遅延(タイムラグがほぼない)、多数同時接続(あらゆる機器がネットに接続)などの特徴があるとされ、大容量のデータをやり取りするVRもスムーズに配信できる。5Gは5年以内に日本全国の事業可能性のあるエリアほぼ全てに展開される予定だ。5Gの本格到来は、xRの本格到来に連動するだろう。

 xRは、現実には存在しないものを表現したり、体験したりできる技術で、実用化済のxRは、AR、MR、VRに大別できる。AR(拡張現実)は、現実世界=視界の「一部」にバーチャルな情報を重ね合わせるもので、「ポケモンGO」の大ヒットは今も記憶に新しい。MR (複合現実)は、視界の「全面」にバーチャルな情報を重ね合わせる。VR(仮想現実)は、現実世界の情報を遮断して、仮想世界のみを描く。「現実には存在しないものを表現、体験できる」ことから、ゲームなどエンターテインメントとの親和性が高く、これまでは、コンテンツ産業での利用を中心に開発されてきた。しかし、5Gの普及とともに、そのフェーズは大きく変わると見込まれている。

 IDC Japanが2019年に発表した予測によれば、全世界のAR/VR分野における市場規模は、89億ドル(2018年)から、5年後には1,606.5億ドル(2023年)に急成長する見通しだ。金融、インフラ分野が毎年、倍増以上に伸びるほか、ビジネスユース全般で、高い成長率が続くことが予測されている(図表1、2)。例えば、株式取引で大量のデータを3Dに可視化したり、VR店舗で商品の選択から購入・決済まで行えるサービスなどの開発が進む。医療技術のトレーニングや、遠隔からの産業メンテナンス、不動産のセールスや展示などへの活用も想定されている。最大の支出国は中国、次いで米国だ。他方、日本は12.9億ドル(2018年)から34.2億ドル(2023年)に拡大するにとどまり、世界全体の成長と比べると、明らかに伸びが鈍い予測となっている。この数年で、大きな差が開くことが危惧される。

革新的なサービス開発に出遅れるな

 今後、IoTであらゆるモノがつながる時代を迎える。医療、教育、農業、製造、建設、観光などのさまざまな「現場」で、ARやMRにより、リアルなデータとバーチャルな情報を掛け合わせれば、今まではあり得なかったような課題解決や価値の提供が可能になるだろう。また、「その場」にいなくとも、そこにいるかのような体験ができるVRの活用は、コロナ禍でリモートワーク、オンラインでの活動など新しい生活様式が浸透していることを追い風に、さまざまな分野で急速に伸びる可能性がある。

 1つ、VR活用の魅力的なアイデアを紹介したい。NIRAわたしの構想No.50(2020)で、フォーブスジャパンWeb編集部編集長の谷本有香氏は、「最近は、日本企業のCEOを、国際的なカンファレンスでほとんど見掛けない。海外でのプレゼンスが低い一因が、言語やコミュニケーションに対する気後れにあるなら、VRやアバターで解決できるかもしれない。」という。例えば企業トップが互いにアバター化し、海辺でカクテルを傾けながら商談できるようなサービスができれば、日本人はそこで良いコミュニケーションが取れるはずだというのだ

 「xR時代」の到来で、ARやVRでどのような革新的なサービスを提供するか。ここ数年の取り組みが世界での主導権を決める可能性がある。ハード面ではまだ課題もあるとされるが、5G本格運用前夜となる今こそ、ビジネスユースに向けたサービス開発に積極的に取り組むべきだ。そうでなければ、大きく後塵を拝することになりかねない。

参考文献

総務省(2020)「5Gの普及・展開に向けた取組」2020年6月8日資料
総務省「ICTスキル総合習得教材」
IDC Japan(2019)「2023年までの世界AR/VR関連市場予測を発表」(2019年6月26日)
NIRA総合研究開発機構(2020)「組織と個人をリ・アジャストする」わたしの構想No.50

執筆者

榊麻衣子(さかき まいこ)
NIRA総合研究開発機構研究コーディネーター・研究員

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