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新型コロナ感染症

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感染対策と経済対策の両立、鍵となる国民の協力

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2020.08.31

 外資系PRコンサルティング会社が実施した調査によれば、日本政府の新型コロナ対応に対する自国評価は低いようだ。一方、日本と同様、国民の自主的な判断により感染拡大の抑制を目指すスウェーデンでは、国民は政府対応を肯定的に評価している。その理由として、政府による国民への丁寧な説明と、国民の政府への厚い信頼が挙げられる。

日本の新型コロナ対策、国民は評価せず

 国内の新型コロナウイルスの累計感染者数と死亡者数が欧米主要国と比べて少ないことから、海外では、日本の対策は成功したと評価されている。しかし、国民の評価は伴っていない。

 図表1は、Kekst CNCが行なった「新型コロナウイルスに関する国際世論調査」で、新型コロナへの対応を機関や人物別に評価したものだ。日本政府、安倍首相、そして厚生労働省に対しては、いずれもマイナス評価が付けられた。特に、安倍首相に対する国民の評価に関しては、調査対象国6ヵ国(注1)のうち最低であった。

 一方、日本と同様、強制的なロックダウンを実施せずに、国民の自主的な判断や責任により感染拡大を抑制するアプローチを採用しているスウェーデンでは、政府、ローベン首相、そして感染症対策を指揮している公衆衛生庁に対して、国民は肯定的な評価をしているようだ。

 この点について、NIRAオピニオンペーパーNo.52「スウェーデンはなぜロックダウンしなかったのか」で、ペールエリック・ヘーグべリ駐日スウェーデン大使は、同国社会が政府と国民の信頼醸成の長い歴史の上に成り立っており、政府機関に対する国民の信頼は厚く、その信頼をよりどころにして政策に協力してもらっていると指摘する。また、宮川絢子先生(前掲オピニオンペーパー)によると、スウェーデンでは、新型コロナのパンデミックが終息するまでの長期間、国民が耐えうる政策をとるべきだということを繰り返し国民に説明してきたという。同国の新型コロナによる死亡率は高く、ゆえに国内でも緩い対策に対する批判はあるということだが、政策を現在まで継続できているのは、多くの国民がそうした政府の戦略を理解し支持しているためだと思われる。

取り除かれない国民の不安や困惑

 話を日本に戻し、政府に対する国民の評価が低い理由を考えてみたい。

 1つには、国民の大半が景気の先行きに不安を抱いているにもかかわらず、政府がその不安に向き合っていないと感じているためだろう。図表2が示すように、上述の世論調査では、40%弱の人が「職を失う」ことを懸念しており、その割合は、罰則のあるロックダウンがとられ、経済活動が完全にストップした国々よりも多い。つまるところ、これまで政府が打ち出した経済的支援策は国民の不安を払拭するのに十分でないと考えられる。

 次に、政府は対策の全体像や個々の対策の目的について、国民に十分に説明しきれていないのではないか。例えば、布マスクの全戸配布案だ。安倍首相は、同案について、店頭でのマスクの品薄状態を背景に、急激に拡大しているマスク需要に対応し、国民の不安解消に少しでも資することが目的だと説明した。その後の緊急事態宣言の発令や給付金等の支援策を鑑みれば、同案は応急的措置の側面が強いものだったのかもしれないが、日本が目指す対策の方向性が国民の間で不透明であっただけに、国民の不安を解消するどころか、失望や困惑を引き起こす結果となってしまったのかもしれない。マスク配布は種々の対策の1つであるということが国民により伝われば、国民の受け止め方も違っていたはずだ。

感染拡大防止と経済社会活動の両立、国民の協力が不可欠に

 未知のウイルス、予想される未曾有の景気悪化を前に、各国とも暗中模索の状況だ。日本政府は感染拡大防止と経済社会活動の両立を目指しており、その実現には国民の協力が不可欠だ。だからこそ、対策に関する十二分な説明を通じて、国民の信頼と支持を高める努力を重ねることを政府には期待したい。

参考文献

翁百合・ペールエリック・ヘーグべリ・宮川絢子(2020)スウェーデンはなぜロックダウンしなかったのか」オピニオンペーパーNo.52
Kekst CNC(2020)「新型コロナウイルスに関する国際世論調査」(2020年8月15日アクセス)

脚注
1 日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、スウェーデン、フランス

執筆者

羽木千晴(はぎ ちはる)
NIRA総合研究開発機構在外嘱託研究員

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