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2020.06.29
COVID-19の影響がさまざまな社会問題へ波及している。経済や労働への甚大な影響、そして中には「超過死亡」のように見落とされがちな重大な影響も指摘されている。あらゆる角度からこの問題へ対応するためには、専門的な知見を活かすことが必要だ。さまざまな分野の専門家からみた課題や展望を紹介するNIRAの特集「ポストCOVID-19の日本と世界」では、多くの有益な示唆が得られると考える。
COVID-19の波及的な被害
世界規模で猛威を振るうCOVID-19は、現在までに累積感染者数約1,000万人、死者数50万人に迫る被害を引き起こしている。我が国においても、累積感染者数が1万8,000人を超え、死者数は1,000人近くなり、緊急事態宣言が解除されても依然として予断を許さない状況が続いている(注1)。その影響はさまざまな社会問題へ波及する。たとえば、経済的側面では、3月から5月にかけてのイベント等の自粛による経済的損失が3兆円に上ることや(注2)、4月の休業者数が昨年同月比約3.4倍の597万人となったことが示されている(注3)。
水面下で失われる命
そうした中、見落としがちな影響も指摘される。その1つが「超過死亡」だ。日本経済新聞の調査によると、東京都の4月の死亡数が過去4年間の平均より1,056人(11.7%)多く、同月のCOVID-19感染による死亡報告104人に対し、超過死亡数が10倍に上った(注4)。外出自粛や入院治療の制限など間接的な影響で超過死亡が生じた可能性が示唆される。
アメリカでは、COVID-19の初期のパンデミックの前後で、救急外来が減少したことが報告されている。CDC(アメリカ疾病予防管理センター)のMorbidity and Mortality Weekly Reportによると、心筋梗塞や脳卒中の症状による救急外来が減少し、18歳以上はどの年齢階層でもおよそ20~30%の減少が起きた(図1)(注5)。アメリカの医療現場は日本以上に深刻な状況下にあったといわれている。生命に関わり、明らかな不調をきたす病気の人さえも、適切な医療アクセスを得られなかった可能性が否定できない。厚生労働省は超過死亡を検証する方針を示しているが、早急に把握して対処しなければならないだろう。
専門的な知見を活かして
こうした間接的影響は、社会の隅々まで波及すると考えられる。経済社会や国際政治から個人の生活様式や働き方に至るまで、あらゆる角度から今後の対応を考える必要がある。NIRAでは、「ポストCOVID-19の日本と世界」と題した特集で、さまざまな分野の専門家に、ご自身のテーマからみたポストCOVID-19の課題や展望を寄稿していただいた。蓄積された専門的知見から示される提言は非常に有益だ。
たとえば、熊本地震を経験した樋口務氏(特定非営利活動法人くまもと災害ボランティア団体ネットワーク代表理事)は、感染拡大を防止しながらの災害避難形態を想定し、そのための仕組みづくりが急務だという。また、被災地外からボランティアや支援団体が入ることが困難になるという課題も指摘する。熊本地震では死亡者総数272名のうち、災害関連死が217名と、約80%に及んでいた(注6)。災害発生時にいかに波及する被害を防げるか、重要な教訓もあるだろう。樋口氏は、「町内会レベルでオンラインによる情報の発信や物資の調整など、被災地で外部との連携の役割を担える人の発掘と育成」が必要だと説く。
また、テクノロジーを介護現場で活用する前川智明氏(株式会社エクサウィザーズCare Tech部長)は、ポストCOVID-19の介護について、「対面でなくても介護ができる環境の構築は今後避けては通れない」として、「デジタルをうまく活用しながら遠隔介護オペレーションを進めた事業者がポストコロナ時代をリードしていく」と、介護業界の変革を期待している。
今後も至るところで予測される課題に対し、各分野からその知見を活かした解決策が示され、実現していくことが求められる。第2波、第3波が来た場合に、直接的な被害だけでなく、間接的な被害も低減できるように、まずはこれまでの被害を迅速にサーベイし、見落としている被害はないか検証すべきだ。
参考文献
NIRA総合研究開発機構(2020)「日本と世界の課題2021 ポストCOVID-19の日本と世界」
- 脚注
- 1 European Centre for Disease Prevention and Control “Download today’s data on the geographic distribution of COVID-19 cases worldwide”(2020年6月28日アクセス)
- 2 日本政策投資銀行(2020)「新型コロナウイルス感染拡大によるイベント等自粛の経済的影響について~3-5月の全国での経済損失3兆円と推計~」
- 3 総務省統計局(2020)「労働力調査(基本集計)」
- 4 日本経済新聞「新型コロナ「超過死亡」提示へ 厚労相「専門家と検証」」(2020年6月22日)
- 5 Lange SJ, Ritchey MD, Goodman AB, et al. (2020)“Potential Indirect Effects of the COVID-19 Pandemic on Use of Emergency Departments for Acute Life-Threatening Conditions — United States”, January–May 2020. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2020;69:795–800. DOI: http://dx.doi.org/10.15585/mmwr.mm6925e2
- 6 熊本県危機管理防災課(2020)「平成28(2016)年熊本地震等に係る被害状況について【第303報】」
執筆者
関島梢恵(せきじま こずえ)
NIRA総合研究開発機構研究コーディネーター・研究員