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デジタル時代のメディアリテラシー向上でインフォデミックに対抗する

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2020.04.30

 新型コロナウイルスに関するフェイクニュースが世界中で飛び交っている。なかには甚大な被害につながっているものもあり、世界保健機関(WHO)はこうした状況を「インフォデミック」として警鐘を鳴らしている。正確な情報の受発信が不可欠な状況において、インフォデミックはパンデミックと並ぶ災害だ。日本でも、フェイクニュースに対抗する仕組みづくりが急がれる。

新型コロナウイルス危機に油を注ぐインフォデミック

 世界中で、新型コロナウイルスに関するフェイクニュースが飛び交っている。なかには甚大な被害につながっているものもある。日本では、「新型コロナウイルスの影響でトイレットペーパーが不足する」というデマ情報が流れ、実際に入手が困難になった地域もある。世界保健機関(WHO)は、このような事態を「インフォデミック」として警鐘を鳴らしている。世界で300万人を超える感染者を記録している未曽有のパンデミック下において、人々が正確な情報を受信することが必要不可欠であり、インフォデミックはパンデミックと並ぶ災害だ。情報受信側が情報を精査する力を養うと同時に、フェイクニュースに対抗する仕組みづくりが急がれる。

プラットフォームの発展によるフェイクニュースの大規模な拡散

 フェイクニュースは、検索エンジンやSNSなどの情報プラットフォームが急速に発展したことにより、大規模に拡散できるようになった。主にアメリカでTwitter上にある新型コロナウイルス関連の情報を、偽情報を特定するAIプログラムで分析した結果、投稿された4,900万件のうち、37.95%が悪意のある情報であることが明らかになっている(注1)

 フェイクニュースの大規模な拡散は、情報プラットフォーム特有の性質に大きな要因がある。4月に発行した書籍『デジタル・デモクラシーがやってくる!-AIが私たちの社会を変えるんだったら、政治もそのままってわけにはいかないんじゃない?』(中央公論新社)でも説明されていたが、SNSやGoogleなどの検索エンジンが、個人の嗜好に沿った情報を個別的に送るアルゴリズムを発達させたことにより、個人が接する情報にフィルターがかかって狭まり、泡で囲まれたようになる「フィルターバブル」を生じさせている。

 また、情報を求める検索エンジンで返される結果は、必ずしも客観的で公益に適う内容とは限らない。NIRAオピニオンペーパーNo.43「21世紀の「資源」:ビッグデータ」の中で、江間有沙氏(東京大学政策ビジョン研究センター特任講師)は、例えば「社長」を画像検索すると、画像がほぼ男性であることなど、実社会から得られるデータには、その収集の時点でバイアスが掛かっていることを指摘している。

 フェイクニュースが流布する理由は、プラットフォームの発達だけではない。前掲の書籍で古田大輔氏(株式会社メディアコラボ代表取締役)は、フェイクニュース発信側も情報流通の多様化に即したマーケティングスキルが向上しており、情報を加工するAI技術の進歩などともあいまって、より広まりやすくなっていると言う。

日本でフェイクニュースに対応するには

 2019年公表の総務省の調査報告において、「いち早く世の中のできごとや動きを知る」「仕事や調べものに役立つ情報を得る」など目的別に利用メディアを見ると、全年代を通じてインターネットの割合が多い。ただし、「世の中のできごとや動きについて信頼できる情報を得る」ではテレビが55.2%、インターネットは21.6%と、信頼性のある情報源としては評価されない傾向にある。それにも拘わらず、偽情報、フェイクニュースはネット上で拡散され、人々の行動に影響を与えている。現在のように先行きが不透明で不安が高まる状況では、自ら情報を探し、素早く情報を得たいという欲求が、その信頼性に拘わらず、これまで以上に高まっているのかもしれない。

 日本において、フェイクニュースにはどのように対応すべきだろうか。前掲の書籍の中で古田氏はまず、信頼ある情報を発信する上で大きな役割を果たすマスメディアに、デジタル時代のメディアリテラシーが不足していると言う。さらに、日本には情報の事実確認を行う「ファクトチェック」の文化がないに等しく、時代に即したメディア倫理を体系的に教える組織もほとんどないことを憂慮している。

 古田氏は、日本でメディアリテラシーや倫理を徹底するにあたり、政府や行政ではなく、主体となる業界団体を設立する形で、自主的に規制する仕組みを推奨している。規制の対象には、コンテンツで広告収入を得ている広告業界も含むべきだという。また、GAFAや、日本ならYahoo!やLINEなどのプラットフォーマーも、悪い情報が流れないようにチェックを行う責務があることにも言及している。今年の2月に行われた総務省の有識者会議は、フェイクニュースへの対策についての最終報告書(注2)のなかで、プラットフォームサービスがインターネット上で偽情報を顕在化させる一因になっていると指摘し、政府の介入は極力避ける形で、プラットフォーム企業に自主的な取り組みを促す方針を発表している。

 プラットフォームの発展により、情報発信が民主化し、もたらされる恩恵も大きいが、公共性に対する情報発信側の使命感や倫理観を向上させることが今後必須だ。そして、情報消費者として一個人がリテラシーを向上させることも重要だ。コロナウイルスに関するデマ情報でも、人々が善意で拡散してしまっているケースも散見される。フェイクニュースが広がっている状況や背景を理解し、情報を得たときにそれだけで即断しないことなどを徹底し、国民一丸となってインフォデミックに対抗するべきだ。

参考文献

谷口将紀・宍戸常寿(2020)『デジタル・デモクラシーがやってくる!-AIが私たちの社会を変えるんだったら、政治もそのままってわけにはいかないんじゃない?』中央公論新社
NIRA総合研究開発機構・ドイツ日本研究所(2019)「21世紀の「資源」:ビッグデーター技術、ビジネス、法の観点から考える」NIRAオピニオンペーパーNo.43

脚注
1 BLACKBIRD AI. (2020) “COVID-19 (CORONAVIRUS) DISINFORMATION REPORT - VOLUME 2.0”
2 総務省(2020)「プラットフォームサービスに関する研究会最終報告書(案)」(プラットフォームサービスに関する研究会 第18回 令和元年2月5日配布資料)

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