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キャッシュレス社会へのキャッチアップ

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2020.03.25

 昨今我が国は、諸外国に比べキャッシュレス化が進んでいないとされている。キャッシュレス化には、「生産性の向上」、「生活の利便性向上と消費の活性化」、「データの活用」といった様々な利点があり、中国やインドといった新興国は決済のキャッシュレス化が進んでいる。日本はそういった面で、新興国から学び、キャッチアップしていくという認識が必要なのではないだろうか。

世界に遅れる日本のキャッシュレス

 昨今、我が国は、諸外国に比べキャッシュレス化が進んでいないとされている。下図1キャッシュレス決済割合で示す通り、2015年時点では、中国・インドなどの新興国と比べても、日本のキャッシュレスでの決済割合は低い水準にある。筆者が、実際に中国・上海を訪れた際には、タクシーの支払いから、コンビニエンスストアや百貨店での買い物に至るまで、当然の如く、QRコード決済(キャッシュレス支払いの一種)を求められた。これはいちいち現金を数えるのが従業員にとって甚だ面倒であるとも考えられるが、中国のなかでも、特に発展している沿岸部では、今やキャッシュレス決済は当たり前で、現地の人々は外出時に財布を持たず、スマートフォン1台をポケットにいれれば、買い物も全て済ませられる環境になっているのだ。

 今までは中国・インドなどの新興国が先進国たる日本に学ぶのが当然である時代であったが、このキャッシュレス化、引いてはデジタル技術の社会実装という点に関しては、日本が新興国から学び、そしてキャッチアップしていくという認識が必要となっている。

キャッシュレス社会のメリット

 それでは、実際にキャッシュレス社会のメリットとは何だろうか。NIRA総合研究開発機構理事・翁百合氏はオピニオンペーパーNo.42「キャッシュレス社会に向けて何をすべきか」で以下のメリットを主張している。まずその1つが「生産性の向上」である。例えば、小売りなどの企業は、1日の「締め」でレジの清算などに人手と時間がかかる。キャッシュレス化は、人手不足の日本にとって、企業の生産性向上につながる重要の取り組みである。その次に、「生活の利便性向上と消費の活性化」である。現金を持っていなくても、カードやアプリで買い物ができ、更にそのカードにポイント付与などがあれば、お得感もあり、更に消費が活性化される。また、近年話題のインバウンドの拡大にもキャッシュレスはプラスの効果もあり、海外から旅行で日本に来る人々が簡便な決済ができれば、消費の更なる拡大も望める。そして最後に決済関係のデジタル「データの活用」が挙げられる。キャッシュレス決済のデータが多く蓄積されれば、そのデータを分析し、更なる付加価値を持ったサービスが提供できるという未来の利点もあると考えられる。

キャッシュレス社会へのキャッチアップ

 このように、キャッシュレス決済は社会にとって相当なメリットが期待される。NIRA客員研究員・東京大学社会科学研究所准教授、伊藤亜聖氏が主張するように、中国メディアが「新四大発明」の1つに挙げるキャッシュレス・モバイル決済は、サービス開始からまだ5年程度だが、中国ではもはや新たな社会インフラとなっている。キャッシュレスを始め、中国のデジタル技術の社会実装は日本と比べて格段に速い。中国のキャッシュレス経済化の進展に伴い、コンピューター上のソフトウェア、サービスを開発してきたインターネット企業がビジネスモデルを大きく変革するなかで、アリババ・グループ、テンセント、百度(バイドゥ)といった有力企業がモバイル時代に対応し、更にその加速に寄与している。我が国としては、世界的この流れに、遅れをとっている現状をよく理解し、キャッシュレス化を筆頭にデジタル技術のスピーディーな実装を目指し、経済の構造改革を急ぐべきではないだろうか。

参考文献

翁百合(2019)「キャッシュレス社会に向けて何をすべきか」NIRAオピニオンペーパーNo.42

執筆者

増原広成(ますはら ひろなり)
NIRA総合研究開発機構研究コーディネーター・研究員

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