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ポピュリズムを生む政治不信と既成政党の変化

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2020.01.31

 2019年12月のイギリス総選挙では、Brexitの是非が大きな争点の選挙だった。そんな選挙の裏で、ポピュリズムの拡大の兆候が見られた。近年、話題となっているポピュリズムは、政治不信によって勢力を拡大させていく。さらに、新しい政党によってだけではなく、政治不信をもとに従来の政党の姿を変え、拡大していくのかもしれない。この傾向は、イギリスやヨーロッパだけでなく、今後、政治への不信が広がっている日本にも当てはまっていく可能性がある。

イギリス総選挙にみる政党の変化

 昨年12月にイギリスで総選挙が行われ、政権与党である保守党が過半数以上の議席を獲得し、大勝した。この結果、どのようにイギリスのEU離脱が進められるのか、そしてどのような影響が及ぶのか、目が離せない状況となった。

 他方で、2大政党の一翼を担ってきた労働党は、多くの議席を失い、歴史的な大敗を喫した。しかし、調査会社YouGovの出口調査によると、イギリスの若者の過半数は、労働党を支持していることが分かっている。つまり多くの若者は、Brexitを進める保守党ではなく、従来の中道左派政策から反緊縮政策(大学授業料の無償化やインフラの国有化など)という極端な政策に方針転換した労働党を支持したのである。

 従来の選挙で保守党と労働党は、最も多くの人が属する中間層からの支持を得ようとして、右派左派は異なるが中道的な政策を掲げていた。しかし、今回の総選挙では、Brexitや反緊縮政策といった両極端な政策を掲げる2大政党の争いに変化している。この変化に、極端な政策を掲げ支持を得ようとするポピュリズムの浸透を垣間見ることができる。ポピュリズムの勢力拡大は、極端な政策を掲げる新たな政党が出現するプロセスをたどるとは限らない。イギリスのように、ポピュリスト的なリーダーが既成政党内で選出され、従前の政策を大きく変え、拡大するプロセスをたどることがある。

政治不信が招くポピュリズム

 近年、ヨーロッパ各国において、極端な政策を掲げるポピュリスト政党の政権参加が増えつつある(注2)。こうしたポピュリスト政党の状況に関して、NIRAオピニオンペーパーNo.40「ポピュリズムを招く新しい「政治的疎外」の時代」では、ヨーロッパを始めとした世界各国で、多くの人々が属する中間層における既存政治への不信が、ポピュリズムを拡大させる要因であると指摘している。

 実際に、2014年と2016年のヨーロッパ社会調査(European Social Survey)のデータを見ると、OECD加盟国で移民排斥などの極端な政策を掲げる右派ポピュリスト政党に投票する層(青色)は、それ以外の層(赤色)と比べても、既存の議会、政党、政治家に対する信頼感が低い。

 多くの国で、現状の政治に不信感を持った層が中間層に増えたことで、既成政党内の勢力図が変わり、極端な政策を掲げるリーダーが誕生している。その一例として、イギリスでは保守党のジョンソン、労働党のコービン、アメリカ共和党のトランプ大統領といったリーダーが生まれた。またアメリカの民主党の大統領候補争いでは、反緊縮政策を掲げるサンダース候補やウォーレン候補の支持が拡大している。

ポピュリズムによる政治の変化に対応する

 中間層にとって、中道的な政策を掲げていた既成政党は、様々な社会課題を解決できず、自分たちの要求に応えることのない存在であった。そんな政治への不信が高まったことで、政治局面を一変させる政策を掲げるポピュリズムが台頭したのである。しかし、ポピュリズムが招く極端な政治は、大きく政治を変化させるが、政治的な不安定さを招くことがある。それは、多くのポピュリストが大幅な支出増や社会的な分断を生じさせる政策を推し進めるため、社会に混乱が生じさせる可能性が高いからである。

 日本でも、有権者の政治関心が大幅に低くなり、政治不信も高まっており、ポピュリズムが拡大する土壌が整ったといえる。政治不信が中間層に広まった日本で、極端な政治を行うポピュリズムを防ぐには、人々の生活上の不満を解消する経済政策を実行し、様々な社会課題を解決させていく現実的なアプローチが必要である。現実的な政治による問題解決を通して、有権者の要求を満たし、いかに中間層を始めとした有権者の既存政治に対する信頼感を高められるかが、これからの日本政治の鍵になってくると考えられる。 

執筆者

澁谷壮紀(しぶたに まさき)
NIRA総合研究開発機構研究コーディネーター・研究員

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